前立腺癌の進行度は「ステージ」として分類されます。このステージが治療方針の決定に用いられるため、ステージ分類はとても重要です。前立腺癌のステージ分類について知っておきましょう。
前立腺がんは辺縁域(前立腺の外側)から多く発症しますが、がんが進行すると前立腺の近くにある膀胱や尿道、精嚢などに転移するようになります。一般的にがんの転移には2種類あり、リンパ節から広がっていくリンパ行性転移と、癌細胞が血液中に入り込んで全身に広がる血行性転移があります。
リンパ行性転移を起こすと前立腺の周りにあるリンパ節から癌細胞が侵入し、骨盤リンパ節や仙骨、膀胱などへ癌が広がっていきます。一方、血行性転移を起こすと癌細胞が椎骨の静脈から骨に転移するため、骨盤や下部腰椎、大腿骨などに癌が広がっていきます。
上記のような前立腺がんの転移の状況や広がり具合を分類したものをステージ、または病期といい、ステージを分類する方法には「TNM分類」と「ABCD分類」があります。
「TNM分類」とは前立腺癌の状況を、癌の大きさ(T分類)、所属するリンパ節転移の有無(N分類)、遠隔転移の有無(M分類)の3つの視点から分類する方法で、TはTumor(腫瘍)、NはNodes(リンパ節)、MはMetastasis(転移)の頭文字を取っています。
このTNM分類は国際対がん連合(UICC)が作成したもので、現在はABCD分類よりもこのTNM分類が用いられています。
「T」は前立腺がんの大きさや広がりを表しており、Tに続く数字が大きいほど癌の広がりが大きいことを意味します。例えば、「T1」と「T2」は癌が前立腺内に留まっており前立腺の被膜を超えていない状態、T3になると前立腺の被膜を破って外に出てしまった状態、T4は周辺の臓器などに転移していることを意味します。
「N」はリンパ節への転移の有無を表しており、「N0」はリンパ節への転移がない状態、「N1」はリンパ節への転移がある状態として分類します。
「M」は前立腺がんから離れた臓器等への転移の有無を表しており、「M0」は転移がない状態、M1は転移がある状態として分類します。
患者の状況に合わせて、上記のT・N・Mのそれぞれに適した分類を選択し、それらをつなげることで患者の状態を表します。例えば、T2aN0M0と表した場合は、癌が前立腺の左右どちらかの片葉の1/2以内にとどまっており、リンパ節転移と遠隔転移はいずれもしていないことを意味します。
TNM分類の詳細は以下のようになります。
TNM分類 | |
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T1a | 直腸診や画像検査で見つからないが、前立腺肥大症などの手術時に偶然発見され、癌は組織の5%以下の場合 |
T1b | 直腸診や画像検査で見つからないが、前立腺肥大症などの手術時に偶然発見され、癌は組織の5%より多い場合 |
T1c | 直腸診や画像検査で見つからないが、PSAの上昇で癌が疑われ、針生検によって癌が確認された場合 |
T2a | 癌が前立腺の左右どちらかの片葉の1/2以内にとどまっている |
T2b | 癌が前立腺の左右どちらかの片葉の1/2を超えているが、両葉には広がっていない |
T2c | 癌が前立腺左右の両葉に広がっているが、前立腺内にとどまっており、前立腺を覆う被膜を超えていない。 |
T3a | 癌が前立腺を覆う被膜を超えて、前立腺外に広がっている |
T3b | 癌が精嚢まで広がっている |
T4 | 癌が精嚢以外の前立腺に隣接する臓器など(膀胱、直腸、骨髄壁、挙筋、外尿道括約筋)に広がっている |
N0 | リンパ節転移はしていない |
N1 | リンパ節に転移している |
M0 | 遠隔転移はしていない |
M1 | 前立腺から離れたリンパ節や臓器、骨への転移をしている |
「ABCD分類」はジュエット分類とも呼ばれ、癌腫瘍の進行度をA〜Dの4段階に大きく分類する分類法です。このABCD分類は日本泌尿器科学会と日本病理学会の前立腺がん取り扱い規約で採用されている分類法です。
AからDに行くにしたがって進行していると理解できることから、患者にとってはわかりやすい分類法と言えますが、最近の医療現場ではあまり使われなくなっています。
ABCD分類の詳細は以下のようになります。
≪病期A≫
癌がすごく小さい状態で、他の病気の手術で摘出した組織を検査した結果、たまたま発見される前立腺がん
A1: | 前立腺内に局限している高分化型腺がん |
A2: | 低分化型腺がん、もしくは前立腺内に広がっている癌 |
≪病期B≫
癌が前立腺内に限局しており、前立腺の被膜を超えていない前立腺がん
B1: | 前立腺の片葉内に単発的に腫瘍が存在する状態 |
B2: | 前立腺の片葉全体、もしくは両葉に腫瘍が存在する状態 |
≪病期C≫
癌が前立腺の被膜を超えているが転移が認められない、または精嚢に浸潤している前立腺がん
C1: | 前立腺被膜外への癌の浸潤が認められる状態 |
C2: | 膀胱頸部、または尿管に閉塞が起こっている状態 |
≪病期D≫
前立腺以外の組織に明らかな転移が認められる前立腺がん
D1: | 所属リンパ節に癌の転移が認められる状態 |
D2: | 所属リンパ節以外のリンパ節への転移、骨や肺、肝臓など遠隔部位への転移が認められる状態 |