前立腺がんの治療と一言で言っても、手術療法や内分泌療法(ホルモン療法)、放射線療法などがあり、それぞれの治療法はさらに細分化されます。前立腺がんの治療法は癌の中でも種類が非常に多く、患者が選べる治療の選択肢がたくさんあるといえます。
逆を言えば、治療法の選択肢がたくさんあることで、患者が選択に迷うことも多々あります。厚生労働省の調査によると、仮に前立腺がんが早期で発見されて手術を受けられたとしても、25%の患者が再発してしまうというデータがあります。
また、前立腺がんの全摘出手術を受けられたとしても、5年以内の再発率は20〜30%、10年以内の再発率は30〜50%というデータもあります。つまり、治療後の再発リスクを長期的により少なくする治療法がどれかをよく検討し、前立腺がんの最初の治療法を選択肢することが非常に重要といえます。
仮に前立腺がんの治療後に再発した場合、根治の期待が難しいどころか、治療自体が初めの治療よりも困難になります。再発後の根治的治療が困難な場合、延命治療へとシフトすることになります。
しかし、延命のために行われるホルモン療法には副作用が多く、高額な治療費による経済的負担も避けられなくなります。
前立腺がんの治療法を決める上で重要なポイントは、長期的に再発リスクが少ないこと、治療期間が短いこと、身体への負担が少ないこと、治療後のQOL(生活の質)が高いことなどがあげられます。せっかく治療して癌を抑えられたとしても、副作用や合併症に苦しみ続けては意味がありません。
医師は治療方針を決めるために前立腺がんがどのくらい進行しているのかを検査し、癌の進行具合や悪性度、患者の健康状態、年齢、合併症の有無、後遺症のリスクなどを総合的に判断して治療法を決定します。
しかし、治療法の選択や決定は医師の得意分野や病院の設備などによって若干異なるため、病院の選択の仕方で治療法が限定される事もあります。
そのため、治療法を医師任せにせず、自分でも前立腺がんについて勉強するようにし、自分の病状にはどの治療法が最も合っているか、自分が希望する治療を受けられる医療機関はどこかなどを調べてから受診する事が非常に大切です。
ほとんどの患者は自分が癌であると知ったことで混乱し、冷静さを失ってしまい、正しい判断が行えなくなる恐れがあります。長期的な視野で正しい治療法を選択する必要がある以上、医師からの治療方針の説明時には家族や友人に同席してもらい、不明な点を確認したり、メモをとったりする必要があります。
「癌は治療が遅れと手遅れになる」というイメージから治療を急いでしまいがちですが、前立腺がんは一般的に進行が遅く、医師から説明を受けてすぐに治療方針を決めなければならないものではありません。
まずは担当医から治療法についてしっかり説明を受け、判断がつかなければ別病院でセカンドオピニオンを聞き、十分に納得した上で治療を受けるようにしましょう。
前立腺がんの治療法は多岐にわたり、癌の進行度や患者の年齢、身体の状態に合わせて選択されます。治療法は医師が一方的に決めるものではなく、最終的には患者の意思で決めるものです。
根治を目指した治療を受ける場合、治療法を選択するうえで大切なことは以下の通りです。
治療後の再発リスク
治療による身体の負担
治療後の副作用
治療後の後遺症
治療期間の短さ
前立腺がんの根治が期待できる治療法には、前立腺の全摘を目指した手術療法と、前立腺に放射線を当てて癌細胞を殺す放射線治療の二つがあります。
手術療法には昔から行われている前立腺全摘除術のほか、傷跡が少ない腹腔鏡下前立腺全摘除術、アダムスと呼ばれるロボットを用いたロボット支援手術があります。
一方、放射線治療は大きく分けて外部照射と内部照射があり、外部照射にはX線治療や粒子線治療、内部照射にはブラキセラピーなどがあります。
前立腺は恥骨や直腸、膀胱、外尿道括約筋などに囲まれており、下腹部の非常に奥深く、狭いところに位置しており、すぐ近くには排尿や勃起をコントロールする神経も走っています。
根治を目指した外科的治療を行う場合、癌に侵された前立腺だけでなく、転移が疑われる周辺組織も取り除く必要がありますが、前立腺の周辺組織は重要なものが多く、取り除けば治療後のQOLが著しく低下する恐れがあります。
そのため、可能な限り前立腺の周辺組織の温存を検討しますが、癌を取り残さずに周辺組織を温存する根治治療は困難を極めます。
また、放射線治療による根治を目指す場合でも、前立腺は非常によく動く臓器であるため、前立腺がんを狙った外部照射は正確さを欠きやすく、線量不足になる恐れがあります。