待機療法とはその名の通り、治療を行わずに経過観察を行うものです。注意点としては、待機療法は「何もしない」のではなく、計画的かつ積極的に検査と観察を続けるというものです。
前立腺がんは高齢者に多く発症する癌であり、進行が遅いのが一つの特徴です。そのため、仮に前立腺がんが見つかったとしても、治療をする場合としない場合でその後の生存率があまり変わらない場合があります。
過去にアメリカで行った調査でも、前立腺がんが早期で発見された患者の10年生存率が、全摘出手術を行った場合、外部照射を行った場合、待機療法で経過観察した場合で、いずれも90%前後とほとんど変わらなかったというデータがあります。
また、他の病気や事故でなくなった高齢者を調べた場合、30〜40%に前立腺がんが見つかったというデータもあります。つまり、前立腺がんを治療しないことが必ず死に至るわけではないということです。むしろ、積極的に治療を行ったことで副作用や後遺症に苦しむ結果を招くこともあります。
一般的には75歳以上で早期の前立腺がんが見つかった場合は、積極的に治療が行われず、待機療法が選択肢として考えられます。また、それより若かったとしても他に病気がある場合、治療後の副作用や後遺症などの身体的負担を考慮して待機療法を選択することもあります。
先にも述べましたが、待機療法は何もしないのではなく、数か月おきにPSA検査を実施し、1年ごとに直腸診や生検を受け、前立腺がんの進行具合を確認する必要があります。この検査頻度は担当医の判断によって異なりますが、待機療法を続けている間は定期的な通院が必要となります。
厚生労働省の研究によると、待機療法を選択する基準は以下のようになっています。
@ | PSA値が10以下であること |
A | グリソン値が6以下であること |
B | 生検で刺した10本の針のうち、癌にヒットした針が2本以下であること |
C | 癌が陽性と出た針の中で、癌細胞の占める割合が50%以下であること |
D | 触診でわからないT1cのステージであること |
上記の基準内であっても、その後の検査でPSA値の上昇速度が上がった場合は悪性度が高いと判断し、待機治療から根治治療に切り替える事になります。待機療法をどのくらい続けられるかは、患者一人一人の状態によってさまざまです。