放射線療法の最新治療として「粒子線療法」という名前を聞くようになりましたが、一体どのような治療法なのでしょうか?
この世にある物質は「原子」からできており、原子は原子核とその周りをまわっている電子からできています。さらに原子核は陽子と中性子で構成されています。
原子を構成する陽子や中性子などを総称して「粒子」と呼びますが、この粒子を飛ばして加速することで放射線にし、それを癌細胞に照射するのが粒子線療法です。
粒子線療法には「陽子線療法」と「重粒子線療法」の二つがあります。陽子線療法は水素原子内にある陽子を用い、陽子を高速に加速した陽子線を治療に用います。
一方、重粒子線療法には水素よりも重量の重い炭素を用い、炭素の原子核を加速して使用します。陽子線はX線とあまりエネルギーに差はありませんが、重粒子線は陽子線の2〜3倍のエネルギーがあるとされています。
X線を用いた放射線療法の場合、どんなに癌組織に対して狙いを定めても放射線のエネルギーは体の表面で多くが失われるため、癌組織に達した時にはエネルギーが弱くなっています。さらに、X線は狙った癌組織を通り抜けていくため、周辺組織も少なからずダメージを受けてしまいます。
一方、粒子線療法は狙った癌組織の部位に最大エネルギーを設定することが可能であり、周辺組織へのダメージも最小限にすることができます。ただし、放射線治療による合併症を完全になくすことができません。
粒子線療法の適応は他の放射線療法と同様、前立腺全摘除術ができないが、遠隔転移が認められない局所浸潤の患者に限られます。
照射を受ける際は可能な限り正確に癌組織を狙うため、体を専用の固定具でしっかり固定します。また、前立腺は動きやすい臓器であるため、膀胱や直腸の影響を受けないように排尿や排便をしっかり行います。
照射を受ける時間は1〜2分程度で、照射による痛みもありません。しかし、照射位置を決める作業に時間がかかるほか、陽子線療法の場合で8週間、重粒子線療法で4週間も治療期間がかかります。この治療期間の長さは放射線療法に共通した問題点といえます。
また、粒子線療法は保険適用がされない先進治療であり、自己負担が300万円程度かかります。これは粒子線療法を行うための施設が大がかりであり、陽子線療法の施設で80億、重粒子線療法の施設で100億を超える費用が掛かるため、患者負担も高額になってしまいます。
さらに、粒子線療法が受けられる施設は国内でもわずかしかないため、治療を希望する患者すべてがこの粒子線療法を受けられるわけではありません。